Fuji Sankei Business I (6/1)

【Fashion Victim】主役引き立てるドレスシャツの色気

ビジネスウエアの主役といえば、大多数の人がスーツと答えるでしょう。ドレスシャツという人は少数派です。もちろん間違いではありません。ドレスシャツはスーツを際立たせる脇役的な存在です。しかし、映画でも名脇役がいるからこそ主役が引き立ち、映画全体が素晴らしいものになります。ドレスシャツとはそれほど重要なアイテムなのです。ドレスシャツは消耗品なので、とりあえず無難な物を選んでおけばよいとか、ディテールはお構いなし、となっていませんか? 脇役だからこそこだわりたいものです。

 ≪サイジング重要≫

 ドレスシャツを選ぶポイントを幾つか挙げましょう。一番大事なのがサイジングです。スーツは体にフィットした細身のものなのに、ジャケットを脱ぐとだぶだぶのシャツを着ている方をよく見かけます。これではジャケットがいかに体に合っていても、着心地は良くありません。シャツとジャケットのバランスが悪いと、いかに丁寧に作られたジャケットを着ていても、サイズが合っていないかのような感覚になるのです。

 

 サイジングをチェックするときは肩幅とアームホールの2点が非常に重要です。ジャケットより肩幅が大きく、肩先からずり落ちるようなサイジングの物を選んでいませんか? 中に着るものの方が大きいと当然、生地の余り部分にシワができたり、ひっぱられてゴソゴソしたりと着にくい原因となります。カジュアルシャツは別ですが、ドレスシャツに関して言うとジャケットの肩先よりまだ内側にくるぐらいが目安です。

 全体的な細さよりも気をつけたいのがアームホールの付け根部分です。ここが脇の下にスッとフィットし、だぶつきもせず窮屈でもない大きさになっているのが良いドレスシャツの絶対条件です。多くの人はこの部分が大きい方が動きやすく、着心地が良いと考えられていますが、実は全く逆なのです。

 脇下の生地に大きくゆとりがあると、ジャケットの脇とゴソついて気持ち悪いだけでなく、手を挙げたりした際に腕側の脇下の生地が身頃側の生地を引っ張り、シャツの裾がパンツから出てしまったりする原因となります。身幅や袖の長さは修理で直せますが、アームホールの付け根部分を細くするのは難しいので注意が必要です。

 ここで簡単に格好良くなるテクニックをお教えしましょう。手を真っすぐ下ろしたときにシャツのカフスがダラ~ンと親指の付け根くらいまで垂れ下がることがありませんか? 袖が長すぎるのも原因ですが、カフスが大きすぎる場合がほとんどです。既製品では多くの人が着やすいようにカフスが少し大きめに作られているのです。

 そうした場合、袖の長さを詰める際にカフスの釦(ぼたん)位置を少し横にずらしてもらうよう依頼すると良いですよ。ピタッと手首にフィットしたシャツは、ジャケットの袖口からぶざまに垂れ下がることもないですし、手軽にオーダーシャツのような気分も味わえます。ちょっとしたことですが、スーツスタイルがぐっとしゃれてみえます。

 お勧めのディテールとしては、前立てと胸ポケットがない方がよりエレガントです。ボールペンやたばこを入れて膨らんでしまった胸ポケットはいただけません。ポケットに物を入れすぎるとジャケットのシルエットにも影響してきます。

 ≪着心地を最優先≫

 ボタンダウンシャツなどカジュアルなシャツは例外ですが、ドレスシャツは本来、アンダーウエア(肌着)としての側面もあります。そこにポケットなどの機能性を求めるのはやぼ!? 肌に優しい上質な生地感と着心地が最優先されるべきだという発想がヨーロッパでは色濃く残っています。素肌に直接シャツを着る人が多いのもこういった理由からです。好みは分かれますが、エレガントな紳士の着こなしの一つです。まねしてみるのも悪くないですよ!

(リングヂャケット クリエイティブマネジャー 奥野剛史)

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【用語解説】前立て

 一般的に言われているものは「表前立て」のことで、シャツのフロントの端を表に折り返し釦(ぼたん)列の両サイドを縫う仕様。ブルックスブラザーズやヒルディッチ・キーなどアメリカやイギリスのシャツブランドに多く見られる。

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フジサンケイビジネスアイ 2009年6月1日より抜粋

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