COLUMN 『服の向こう側』 vol.35 / bespoke shoes『TETSUO MUNE』

淀屋橋店で『TETSUO MUNE』のビスポークイベントをするので、今回は靴のことを書いてみようと思う。

 

 

初めて会ったのは、15年以上前だっただろうか?

知人の紹介だったか?飲みに行ったらたまたま居合わせたのか?あまり詳しく覚えていない。ただ、誰とでもすぐ打ち解ける朗らかな性格とファッションが本気で好きな人だなと思ったのは覚えている。暫く会わない期間があったが、彼がジョンロブで働くようになってからたまに会って話すようになった。服屋から靴屋に変わりお互い歳をとったが、初めて会った時と全く変わらないのが彼の良いところの一つだと思う。

 

 

そんな彼から突然連絡がきて

『今の会社を辞めてビスポークシューズをやっていこうと思っています。まだ、一人でやっていて数量も出来ないので、、、ある程度作れるようになったら見てもらえませんか?』

と言われた。

 

 

スタイル提案やフィッターとしてのスキルは抜群だったが、モノ作りとなると少し話が違う。しかし、本当に好きで好きで堪らなくて突き詰めてやっていく人は、道は険しくてもいずれ大成する!というのが私の持論だ。色々と否定的な事を言う人もいたが、私は応援していた。

 

 

また、暫く会わない期間があり忘れかけていた頃

『靴をみてくれませんか?率直な意見を聞きたいんです。』

 

と連絡があった。この業界は浮き沈みが激しく、志半ばで辞めていった人間を何人も見てきたので素直に嬉しかった。それから何度か試作の靴を見せてもらっては、ここはこうした方が良いのでは?この木型は…、とやり取りを繰り返していた。

 

 

数か月経ったある日、連絡があった。

『某ビスポークメーカーに勤めていた職人さんが独立するので、自分の靴作りも手伝ってくれることになりそうなんです。それが出来たら、少量ずつですがお客様の受注生産が出来るようになるかもしれません!』

※ビスポークシューメーカーは、一人では生産数が極めて限られるので数人の職人とチームを組んでやるのが一般的。


自分の事のように嬉しかったのを覚えている。まだリングヂャケットで取り扱うかどうか?の話も全く決まっていないときであったが、思わず自分のオーダーシューズをお願いした。

 
 


これまで靴のパターンオーダーをした事は何度かあったが、本格的なビスポークは初めてだった。
靴の企画案をイタリアのシューメーカーに持ち込んだり、デザインを考えた事も何度かあったけど、それらともまた違った魅力があってとても新鮮な経験だ。

 

 

 

1stフィッティング

 
 

細かく計測していく

 
 

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トライオンシューズ。スーツオーダーのゲージのような靴。

足を採寸した情報と、靴を履いた状態の情報との両方を使って精度を上げていく。

 
 

 
 

それから数か月後に仮縫いの靴が出来上がってきたので2ndフィッティングに行ってきた。

 

 

 

 

当たる箇所や、、、もっと攻めていく所と、、、

相談しながら決めていく。

 
 


 
 
 
 

こうして数回の打合せとフィッティングを経て出来上がったのがこの靴である。


 

 

•革
『質の良い表側の黒』とだけリクエスト。基本的な要望だけ伝えてタンナーは任せる事にした。

ある程度は決めて任せるとこは任せる…というやり方が一番良いと思っている。

 

 

イルチア、アノネイ、ワインハイマー…など海外有名タンナーの名前だけで選ぶのも目安としては悪くないが、実はランクがあってクオリティも様々だ。

有名タンナーの下位ランクの革を使うくらいなら…、『日本の栃木レザーの革の方がずっと良い』との事。
同社のベジタブルタンニンレザーに少し興味があったので、これまでとは違ったセレクトでmade in Japan レザーというのも悪くない。

 

 

…と思っていたが、キメ細かい上質なレザーが手に入ったから此方にしました!とのこと。
革はDu Puyだった。エルメスが贔屓にしている革屋で上品な印象だ。
予定と変わったが、革質にはとても満足している。

 


•ソール
J.Rendenbach
オークバークソール
ベイカーと迷ったが今回はレンデンバッハに。両社共にビスポークではよく使われるが、既成靴ではあまり使用されない。勿論、クオリティは抜群だ。次回はベイカーにして違いを愉しんでみたい。

 

 

Fiddle back仕様でグッと土踏まず部分をシェイプさせた。

半カラス仕上げも好きな仕様だ。

 
 

 
 


•シームレスバック
ビスポーク靴の全てでやっているという訳ではないが、カカト部分の切替が無いこのデザインは吊り込みに手間がかかるので既製靴ではまずやらない仕様だ。
折角ビスポークするなら…とシームレスバック仕様にする人が多いらしい。ビスポーク靴と既製靴を見分ける簡単な方法の一つとも言える。

 

 


あとバックルシューズのビスポークと既製靴の簡単な見分け方もある。

バックル部分のピンをさす穴の数である。既製靴ではアジャストできるように穴が3つあいているのが一般的だ。
それに対してビスポークシューズは、作る人の足に合わせて一から作るので穴を一つしかあけない(勿論リクエストすればあけてくれるが)。

 

•ピッチドヒール
ヒールの積み上げが先細りになるようにするビスポークでよく見られた仕様を取り入れてみた。スッキリとしてエレガントな印象になる。
また、高さも通常より気持ち高くしてみた。こういった所もアレンジ出来るのはビスポークならではだと思う。


ピッチドヒールは細くなる分、安定感が落ちるので良くないという意見もあるが…まぁ好みだと思う。

 
 


•トゥデザイン
トゥのデザインがプレーントゥだと少しシンプル過ぎる気がしたのでキャップトゥにするか?穴飾りを入れるか?迷っていた際に作り手から提案があったのがこのイミテーションキャップトゥ。

某パリ ビスポークシューズで昔見られた仕様。本来のキャップトゥだと革を一枚上からかぶせることになる。そうなると数mmだが段差が出来るのに対し、この仕様だとよりスマートでエレガントなキャップトゥになる。(ま、殆ど分からないレヴェルだが…、言われなければ分からない?言われても分からない?ような事に拘るのがメンズクロージングの面白い所だと思う。)

 

 


『それは良い!』と採用したが、そのまんまやるのも面白くないし、スッキリし過ぎてしまうのでは?との懸念もあった。
そこで、以前に靴の企画案を何度かイタリアのシューメーカーに持ち込んだ際に使ったディテールの一つとして、トリプルステッチにしてシンプルな中にも少し主張を入れるというデザインをした事を思い出した。

そうした話し合いの中で、イミテーションキャップトゥ+トリプルステッチ という仕様にする事になった。

※ステッチ糸の番手を太くするかどうか?という話もでたが、ここは作り手の美意識に任せた。
バイイングや商品企画の仕事を色々とやってきたが、これまでの経験則から言うと何から何まで口出しするとかえって良い物は出来ない。
ある程度の方向性とベースのデザイン案(70~80%くらい?)は固めておくべきだが、任せるとこは任せる!というほうが結果として良い物が出来ることが多い。

 

 


最終的にはサイドの切替はダブルステッチ。イミテーションキャップトゥはトリプルステッチ。
ステッチの太さは同じで…となった。
結果としては大満足である。

 
 


 
 


•サイドの切替デザイン
側面後方の切替のデザインが気に入っている。
その昔、ビスポークシューズで用いられたディテールを取り入れてみた。
しかし、本来はダービー型に使われたディテールだったので、今回のシングルバックル バルモラル型の仕様には向かない…、という事で革の切替や端の処理など何度かの打合せを経てこのデザインに落ち着いた。

 

 


デザインを触るという行為は、服同様に作り手と依頼する側の両方がある程度の知識と経験、そして共有するイメージを持って話し合う事が重要だと改めて思った。

正面からは普通だけど、横からよく見ると少し変わっている…という塩梅がとても好みだ。

勿論、無理にデザインを触る必要はない。デザインサンプルがあるので、気に入ったスタイルを選んでオーダーする事も可能だし、究極のベーシック!としてシンプルなストレートチップをオーダーするのも悪くない。
 
 

•フィッティング
足の形自体は、そんなに変わったクセがない。ただ、全長が小さいので『足の形そのまま合わせる』と小さく見え過ぎてパンツとのバランスが難しくなる。
この辺はスーツのオーダーにも通じる部分があるなと思う。身体に合わせるのがオーダーとはいえ、全てキッチリと合わせるのが必ずしも正しいとは限らない。極端な例えだが、全身タイツを着た姿が果たして格好良いかどうか?
どう見せたいかによって、ゆとりの取り方が変わってくる。

『足が小さく見えないように、トゥ部分の適度な捨て寸とボリューム感』
『でもビスポークらしく攻めるとこはググッと攻めるフィッティング』
という何とも漠然とした難しいお題をださせて頂いた。

 

 


あと細かい所だが既製靴だとくるぶしが当たる事が多い。しかも片側だけ。そんな訳で、いつも靴が馴染むまで絆創膏を手放せない。


そこで、くるぶしが当たらないよう左右共に高さのバランスを調整してもらった。
勿論、ボールド感が弱くならないようにヒールカップを小さくしてカカトをしっかりと包み込むようにしてもらっている。

 


フィッティングの出来上がりに関して言うと、『素晴らしい!』というところと『もう少し攻めれたな』というところがある。
しかし、スーツやシャツのオーダーも微調整しながら3回くらい作ってやっと完成形に近づくと思うので、最初でここまでのクオリティだと大満足である。
『もう少し攻めれたな』と思うところは次回へのお愉しみが残っているんだと前向きに捉えている。

 
 


Bespoke の本質とは?
を最近良く考えていた。

『話す』を意味するところからも、話し合いながら理想とするイメージ像を共有しながら少しずつ一緒に形にしていく行為だと思う。

オーダーだから何でも出来る!という単純で乱暴なものでもない。人と人が理解し合うのは時間がかかるし、相性の問題もある。
しかし、そういったやりとりを経て出来上がった物はとても思い入れがあって、身体の一部のようにさえ思えるぐらい愛着をもつようになってくる。
革、縫製方法、品質や薀蓄…など色々あるが、そんな事よりそこにこそ本質があるように思う。

 

 


それが、最近考えていたBespokeとは?の一つの答えのような気もする。

 

 

しかし、その一方で作り上げるまでに時間や労力や経験、コストがかかるのも事実だ。

今回Bespokeをする事で、それらを結集して全てのバランスを高次元で追求していく『究極のready to wear』の可能性を感じる事ができたのが実は一番良かったかもしれない。
自社の『注文服のような既製服を作る』というスローガンが前にも増して好きになった。

 
 


これからも
究極のready to wearと
Bespoke
両方愉しんで行きたい。

 
 
 
 

From RING JACKET creative div. manager Mr.Okuno

 
 
 
 
 
 

TETSUO MUNE プロフィール

宗鉄雄(ムネ テツオ) 靴職人・靴磨き職人
元Corthay大阪 / 元JOHNLOBBヒルトンプラザ店マネージャー
JOHNLOBBでビスポーグ担当も5年務め、パリのアトリエやノーザンプトンのファクトリーで靴作りも学ぶ。
JOHNLOBB退社後、国内の手縫い靴学校で靴作りの基礎を学んだ後、自身のビスポークシューズ「Tetsuo Mune」を設立。
2016年10月大阪西天満に、レザーメンテナンスサービスと靴オーダーを受ける「Crépin」を出店し、現在に至る。
 
 
開催期間:2018年11月23日(金 祝日)・24日(土)
ビスポークシューズ価格:¥276,000-(税抜)から

納期:約4か月後仮縫 + 約4か月後仕上り