オープンカーとリネンジャケット 非日常を纏う美しさ

 日差しが日々輝きを増し、空気が芳しい季節になると、オープンカーとリネンジャケットが恋しくなる。だが、なぜ、オープンカーとリネンジャケットなのだろう。    今まで比較的いろいろな車に乗ったことがある私だが、2台のメルセデスSL、ジャガーXJS-C、プジョー208カブリオレ、ケーターハムスーパー7など、私にとってオープンカーは特別な存在となっている。  イギリスではある種のオープンカーをドロップヘッドクーペと表現する。頭を落としたクーペ、つまりオープンカーの特別感は外の空気との一体感にある。幌をあげて走りだすと、光も空気の匂いも体感するスピード感も、すべてのものが一瞬にして劇的に変わる。それは日常からの脱出の瞬間だ。    オープンカーといえば思い出すのは、ジャン=リュック・ゴダール監督の映画『気狂いピエロ』の中のワンシーンである。ジャン=ポール・ベルモンド演じる主人公のフェルディナンは結婚生活に倦怠を感じている。そこで再会する元恋人がアンナ・カリーナ演じるマリアンヌだ。  アウトビアンキプリムラに乗るジャン=ポール・ベルモンドと、アルファロメオ・ジュリア・スパイダーに乗るアンナ・カリーナが、互いのオープンカーから身を乗り出すようにしてキスを交わすシーンがある。この後に起こるふたりの破滅的な逃避行を観ると、この初期の情熱的なキスシーンはより鮮烈なものとなる。オープンカーは自由の象徴なのだ。    私の中でオープンカーとリネンジャケット、この組み合わせのイメージが鮮明になったのは、パリのサンジェルマンのカフェで見かけた老紳士のせいかも知れない。  彼はアイヴォリーのリネンのスリーピースにパナマハットを被り、ロールスロイスの白のコーニッシュ、のドロップヘッド・クーぺでカフェに乗り付けていた。聞いたところでは、一杯のカフェとシガーを楽しむ、それだけのためにこうしてカフェにやって来るという。雑踏のサンジェルマンの中心でまばゆいホワイトのコーニッシュに乗る彼が目立たぬはずはない。だが、周囲の注目を敢えて楽しむかのように、劇中の人物のように堂々と振る舞う彼の態度と、いかにも馴染んだ様子のリネンのスーツには、パリにしか存在しない、自意識の強いエスプリがあった。                    さらにリネンスーツというと思い出すのはジョン・ル・カレ原作『パナマの仕立屋』を映画化し、2001年に公開された『テイラー・オブ・パナマ』がある。主人公はピアース・ブロスナンだが、彼のスパイ活動を助ける、パナマ政府要人御用達の仕立屋をジェフリー・ラッシュが演じている。この中でジェフリー・ラッシュが着るのは、洒落たリネンスーツというより、むしろオールドファッションなスタイルのスーツだが、そこではパナマの気候風土と暮らしに溶け込んだリネンスーツを見ることができる。    そもそもリネンとは北方ヨーロッパなど寒い気候で育つ亜麻科の一年草フラックスで織られた織物のことだ。天然繊維の中でもっとも耐久性が高いとされ、吸水性、吸湿性にも優れている。亜麻(フラックス)は通常の麻と比べると繊維が細いことからしなやかさと光沢感があり、時間を経て使い込むほどにしなやかさと光沢感が増していく。発色性にも優れ、デリケートな色合いの表現力もリネンの魅力のひとつだ。空洞状の繊維が空気を含んでいるので、実は冬温かく、夏は涼しい。サファリジャケットやドライビングジャケットの使い込まれて無造作にシワがよった佇まいもいいが、私の中での究極のリネンジャケットはナポリで見たものである。    ナポリを代表するマエストロとディナーの後、レストランの外に出た。イタリアにいると、大抵ディナーの後は煙草を楽しむ時間となる。昔はレストランの室内で吸えた時代もあったが、いまはそんな時代ではない。こうなるとかえって煙草を吸うという反社会的行為自体に共犯意識が芽生えるような気がしてくる。たっぷりしたディナーのワインと食事の余韻を楽しみながら、この日も皆が思い思いに煙草を吸い始めた。    リネンは一般的に硬い、ドライな質感が特徴とされている。しかし、その象牙のような色合いのリネンジャケットは、やわらかに美しくロールを描くラペル、張りのある立体感を持つドレープ、まろやかな質感があり、一目見たときに圧倒された。そのジャケットは時間とクラフツマンシップが創りあげたリネンならではの美しさを湛えていた。    リネンジャケットをふわりと羽織り、指に挟んだタバコを吸いながら、彼は独特のしゃがれた低い声で言った。   「この通りには昔はあらゆるイタリアの名車が並んだものだ。それは壮観な眺めだった。いまは見る影もないが」    紫煙の先にはナポリ湾、さらにその先に広がるティレニア海があった。深呼吸をすると、夜でさえナポリ湾の湿った熱気を感じた。私は潮混じりの熱気を含んだ風の中を走るアルファロメオ・ジュリア・スパイダーと、ドライバーズシートで風をうけてたなびくクリーム色のリネンジャケットを想像した。    リネンには日常を離れた、実用性とは異なる、非日常を纏う美しさがある。オープンカーとリネンジャケット、双方に共通するのは、柔らかな空気を纏うような、あの自由な感覚だ。日々、延々と続くような日常生活に倦んだ時、人はオープンカーとリネンジャケットが恋しくなるのではないだろうか。         長谷川喜美(はせがわよしみ) ジャーナリスト。イギリス、イタリアを中心にヨーロッパの魅力を文化の視点から紹介。クラフツマンシップやメンズスタイルに関する記事を中心とする雑誌媒体『メンズプレシャス』『Men’s Ex』『The Rake Japan』等に執筆している。近著に『サルトリア・イタリアーナ』『サヴィル・ロウ』等。インスタグラムアカウント:yshasegawa

COLUMN 『服の向こう側』 vol.47 /  フレンチな香り漂うアメリカンB.D.

何度か挙げている通り、今季のディレクションテーマの一つに『amercan flavor mix』がある。   「american」というのは勿論大事だが、「mix」というのが実は大きなポイントだ。あくまで、懐古主義の「まんまアメリカン」ではなく、良い意味で亜流というか色々と混ざってる感じが面白いと思う。 商品開発全般に言えることだが、この『ミックス感』というのを大事にしている。ルーツやヴィンテージ、ヘリテージといったものに敬意を払いながらも『今、コレをやるなら…、こういった表現が良いのでは?』と考えながらアップデートしてやるのが良い。懐かしさと新しさが共存している変な感じ?を大切にしている。   あと、「アメリカ」と銘打っているものの自分の中では「フレンチ」な要素も多分にある。 フレンチアイビーを語るときに外せないのがボタンダウンシャツだ。しかし、ボタンダウンシャツと言えばアメリカ。フレンチだけどアメリカ?と不思議な感じがするけど、、、 日本人がアメリカントラッドやアメリカのカルチャー全般(アメカジも含む)にヤラれたように、フランス人もアメリカにヤラれたときがあったようだ。フランス人の視点から見たアメリカ(ボタンダウンシャツなど)は、ド直球のアメリカとは違った解釈をもって着こなしに取り込むことができ新鮮に映った。ボタンダウンに限らず所謂アメリカンで実用性重視のヘビーデューティー・スポーティなアイテムが、洗練されたヨーロッパのアイテムと組み合わせることで不思議な化学反応を起こしたのだ。 この化学反応は、マルセル・ラサンス、エミスフェールらによって深化し、日本のセレクトショップが目を付け、現在の多種多様なファッションのルーツの一つとなった。     そんな、“アメリカ”だけど“フランスの匂い”がするボタンダウンシャツを作りたくて出来たのが今回のシャツ。     左)タテヨコ双糸使いのしっかりとしたオックス生地。 安価なボタンダウン・オックス生地は多くの場合、ヨコ単糸使いでヘナっとしたオックス生地が多い。柔らかく馴染みが良い…という表現をされる場合もあるが、自分の中では「ヘナっとして物足りない」感じがする。やはり双糸使いで打ち込みがしっかりとした生地が好きだ。 特に白のオックス生地にはそれを求めたい。 タテヨコ双糸使いであってもドレス用の100双以上のロイヤルオックスになるとしなやか過ぎる。意外に思われるかもしれないが、丁度良い塩梅のオックス生地は案外少ないのだ。     右)今の気分とフレンチアイビー的な気分にピッタリのタータンチェック。 毎回、沢山の生地を見て吟味するが、みた瞬間『コレだ!』と思った柄。とても気に入っている。                     スプリットヨーク、ループ、釦、センターボックスプリーツ、、       衿、カフス、前立て、とダブルステッチの仕様にしている。 これも古いアメリカンシャツの定番的なディテールの一つ     台衿も低めで、衿の開きも狭い。 下画像にある所謂イタリアンB.D.と比べると全く雰囲気が違うのが分かって頂けるかと思う。           ナポリのハンドメイドシャツ工房で作ったので、袖山は雨降り仕様で柔らかなギャザーが入っているのが良い雰囲気だ。     フレンチな気分で、アメリカの古いシャツのディテールを取り入れ、ナポリで作られたボタンダウンシャツ。 アメリカのシャツメーカーが見たら「違う!」と言うかもしれない。フランス人が見たら「???」と思うかもしれない。よくあるイタリアの色気漂うシャツでもない。 でも、そんな無国籍でミックス感のあるボタンダウンシャツが今格好良いと思う。 [...]

COLUMN 『服の向こう側』 vol.46 /  柔らかく丸い衿

  今回、2019年春夏スタイルの撮影をFIRENZEで行った。 その際、コーディネートの主軸の一つとして使ったのが、今回のラウンドカラーシャツである。           数年前にもラウンドカラーのシャツが流行ったことがあったが、その時は衿が小さくワイド気味のものが多かった。タイドアップも勿論出来るが、洗いざらしでカジュアルに着ても洒落てる、、、というイタリア的解釈のラウンドカラーであったと思う。     それと比べると今回のラウンドカラーは衿先も少し長く、開き具合も狭くレギュラーカラーに近い雰囲気。英国の伝統的なシャツを彷彿させるクラシックな衿型である。 シャツメーカーなら多くの衿型を持っていて当然この辺りのデザインも持っている、、、と思いきや案外もっていないケースが多い。特にイタリアのシャツファクトリーでは、イタリア的ラウンドカラーはあるが英国的なデザインは無いケースがあるのだ。   無いなら作ろう!と製作にかかった。   何でもかんでも別注で作るのが良いとは思わない。「欲しいものが無い。なら作る。」のがオリジナルの本来のあるべき姿だと思う。「別注の為の別注?」「別注してますと言いたいが為の別注」が多く氾濫しているように思うのは私だけだろうか?                 毎度のことながら打合せは難航。 1時間程で終わる予定の打合せが、気が付けば3~4時間経っていたというのはザラである。『ナポリは難しい』と日本人の同業者だけでなくイタリア人までも口を揃えて言うが、本当にその通りだと思う。しかし、『ナポリにしか出せない雰囲気がある』のも事実だ。   上がってきたサンプルを見て苦笑いしながら連絡することは一度や二度ではない。(仕様間違いや指示通りになっていない…等々。)         ※何故かセカンドサンプルでOKだったところが、サードサンプルで間違って上がってくる。一つ改善されると、一つ間違う? いたちごっこのような打合せが数回続く。 並べてみると分かりやすい。衿の開き具合が違うだけで全く違うシャツになる。       今回も計4回サンプルを上げてもらって何とか商品化にこぎつけた。衿のデザインだけでなく、ステッチ幅、芯地、台衿フロント下のクリ、、、等々言われなければ分からないけど、実はコダワリが詰まったモディファイをしている。     英国のシャツメーカーは芯地が硬くカッチリした印象になるが、このシャツは適度な柔らかさの芯地を使いながら接着芯で固めないフラシ仕上げにこだわった。クラシックなデザインだけど独特の柔らかい雰囲気に仕上がっている。 縫いやすく綺麗に仕上がりやすい(クレームになり難い)との理由で生地を接着芯で固めて衿やカフスを作るイタリア・シャツメーカーも多いが、やはり接着芯で作られた衿は堅い印象で独特の柔らかさが表現できない。接着芯を使っていても高級シャツと認知されているブランドもあり、好みの問題でもあるが、、、RING JACKETのスーツは接着芯ではなく、手間暇がかかるが生地本来の風合いや柔らさを大事にする毛芯仕立てだ。どちらが相性の良いシャツかは言うまでもないだろう。   クラシックな佇まいだけど、ナポリならではのアジと柔らかさがあるシャツに仕上がった。手前味噌ながら良いシャツだと思う。                 [...]

COLUMN 『服の向こう側』 vol.43 /  Mr.Slowboy × RING JACKET vol.2

2018年 秋冬シーズンに好評だった『Mr.Slowboy × RING JACKET』pocket square 企画の第二弾が届いた。 ⇒詳しくは前回のコチラ         2019年 春夏のディレクションテーマ『JAM COLOR(ジャム カラー)』を伝えたところ、、、 ジャムを彷彿させる綺麗なカラーを取り入れるのは勿論だけど、『ジャム』から発想を広げてRING PEOPLEがロンドンの公園でピクニックをするのはどうだろう? というアイデアが出てきた。   良いね!面白い!!!     という事で出来上がったラフスケッチがこちら 何だか楽しそうな雰囲気だ。                 今回もポップなイラストながら胸元にさすとすんなり馴染む素敵な商品が出来た。 是非手に取ってもらいたい。                   ITEM : POCKET SQUARE / RING JACKET ART : 59269S01 PRICE : 12,000- YEN [...]

ロンドンとニューヨーク スーツの佇まいが語る街

 トルーマン・カポーティーの小説『ティファニーで朝食を』の主人公ホリー・ゴライトリーの名刺には住所がない。ただ〝Traveling(旅行中)〟とだけ、記されている。    これと同じで、私にとっては旅することが仕事のようなものなので、通年を通してほぼ毎月、海外の様々な都市を訪れる。なかでもニューヨーク、ロンドン、フィレンツェ、ナポリ、東京、こうしたスーツの似合う街で、それぞれにスーツの佇まいは異なっている。    グローバルスタンダードという観点からみれば、政治力に長けた英国人と英国に学んだアメリカ人の装いこそ、世界のスタンダードといえるかもしれない。現在の上下同素材のスーツの歴史は創世記である19世紀から20世紀にかけて英国によって作られてきた。英国の産業革命に続き、植民地政策の終焉が始まった1920年代、今度は富めるアメリカがスーツの歴史に台頭してきた。    スーツは政治と経済と結びついて発展してきた歴史から、世界の金融の中心であるロンドンのシティとニューヨークのウォール街は、ファッションがカジュアルになっている現在でも、圧倒的にスーツの街である。興味深いのは、彼らが例えメイド・イン・イタリーのスーツを着ていても、その着こなしは飽くまでブリティッシュスタイルということだ。    例えば、男はホーズを着用し、脛を人前で見せることはない。アクセサリーも許されるのは結婚指輪とカフリンクス、時計くらいと至ってシンプルだ。    一方で、彼らはピンクのシャツや太いストライプのブレイシス、鮮明なカラーのタイといったコントラストの強い服装を好む傾向があるが、それはそのまま彼らのエネルギッシュで貪欲な上昇志向を象徴しているに違いない。    さらにニューヨークでは、アメリカ人の着こなしの根底に英国への憧憬が常にあることを強く感じる。映画『グレート・ギャツビー』で、主人公ギャツビーがコレクションしているカラフルなターンブル&アッサーのシャツが空中に舞うシーンを覚えている方も多いことだろう。  さらに金融の街といえば、映画『ウォールストリート』も印象深い。『ウォール街』の続編にあたるこの作品では、インサイダー取引で刑務所に服役していたマイケル・ダグラス演じる投資家のゴードン・ゲッコーは出所後にロンドンのジャーミンストリートに向かう。自らの復活のシンボルとして、ここでスーツから靴までを購入し、装いを完璧に仕上げて戦場へ戻る。俺はここに帰ってきたのだと自分の中で再確認し、同時に社会にもアナウンスするための儀式となっている。スーツを着る時の高揚感が実に上手く表現されている。       ところで、このようにロンドンとニューヨークで同じブリティッシュスタイルでも、やはりその土地によってスーツの仕立てに対する哲学の違いがある。オーダーメイドのスーツをロンドンではビスポーク、ニューヨークではカスタムと呼んでいるが、ロンドンは個々に一から型紙を作る完全なビスポークを好むのに比べ、ニューヨークのカスタムはロンドンのビスポークと同意語ではない。    ニューヨークでひとりのカスタムテーラーにインタビューした時、「一から個々の体型に合わせて型紙をつくるなんて非効率だ。ベースパターンから補正する方が無駄がない。」と語るのを聞いた。どの方法にも長所と短所があるし、ニューヨークのテーラーがすべてこうした考え方をしているとは限らないが、20世紀以後、ブルックス・ブラザーズに代表される既製服の歴史を作ってきたアメリカならではの合理的な考え方ではないだろうか。    ニューヨークには「パワースーツ」という言葉がよく似合う。カラーはダークネイビー、スーツ全体のラインやシャツカラーも直線的でソリッドなものが好まれている。ウォールストリートを足早に歩くシングルブレスティッドのブラックのチェスターフィールドコートの男達、こうした潔いクールなダイナミズムもニューヨークではかっこよく見える。               逆に、英国人の価値観ではあからさまに新品だとわかるものや、コントラストの強い、わかりやすい着こなしというのは幼稚だと感じているらしく、派手な色彩や大げさな表現は好まれない。スーツのメインカラーのグレーとネイビーでさえ、何色もの色が存在するメランジュカラーを彼らは好んでいる。    バンク・オブ・イングランドに代表される、石造りの重厚な古典主義様式の建築が立ち並ぶシティでは、ピークドラペルのダブルブレスティッド、身体に馴染んだキャメルカラーのカシミヤコートの男達は、その存在自体が街の景観の一部であるかのようだ。    その土地でしか作り得ないスーツもあれば、その都市にしかないスーツの着こなしもある。それを肌で感じるのも私にとって旅の醍醐味のひとつとなっている。                         長谷川喜美(はせがわよしみ) ジャーナリスト。イギリス、イタリアを中心にヨーロッパの魅力を文化の視点から紹介。クラフツマンシップやメンズスタイルに関する記事を中心とする雑誌媒体『メンズプレシャス』『Men’s Ex』『The Rake Japan』等に執筆している。近著に『サルトリア・イタリアーナ』『サヴィル・ロウ』等。インスタグラムアカウント:yshasegawa    

COLUMN 『服の向こう側』 vol.42 /  american flavor vol.2

前回、昔のRING JACKET広告資料から復刻したamerican flavorなタイを紹介させてもらった。 生地から作り込んでいったのでとても思い入れのあるタイである。   実は、これだけではなくて、、、 どうせCOMOまで行って作るならと他のネタも仕込んできた。     前回みつけた古いスクラップブックと共に見つけたのがこの資料だ。         前回の1981年より更に古い 1973年のブルックスブラザーズのカタログである。     なかなか興味深い内容が盛り沢山だ。興味の無い人が見ると、ただ古臭いだけの資料かもしれないが、他社のデザイナーや企画者がみると興奮すること間違いなしだと思う。 こういった資料が何気なく残っているあたりにもRING JACKETの歴史を感じる。       パラパラとめくっているとふと気になるページがあった。             当然、レジメンの落ち方もアメリカ式。 右上のデザインが気に入ったので、この資料をベースにCOMOの生地メーカーと打合せをした。           ※COMOの某シルク生地メーカーのGiorgioさん。長年ネクタイ業界にいる重鎮ながらチャーミングなキャラクターで彼を慕う業界人も多い。     ただメールして終わり、、、 ではなく打合せをしていると色々な話が出てくるから面白い。     『懐かしいなぁ。イラストなんで分かり難いが、これはイギリスの生地メーカーが得意としていたクラシックな ツイル&サテンのクオリティだと思うよ。よく見ると全部同じ組織じゃあなくて、無地とラインのところがツイル組織とサテン組織に切り替わっているのが分かるかい?』     『昔は、このクオリティが流行ったの?』     『今でも無い訳じゃあないけど、最近はあんまりみなかったかな。でもトレンド的にこういった生地はまたアリかもしれないね。』     『じゃあそのブリティッシュ ツイル&サテンの生地は今でも作れる?』   [...]

COLUMN 『服の向こう側』 vol.39 / napoli と fox brothers

    昨年の7月、milano unicaという生地の大型展示会に行ってきた。どうせミラノまで行くのであれば、ナポリも廻ってRING JACKET Napoli企画の打合せをすることにした。   ナポリのネクタイ工房でヴィンテージのアーカイブ資料をベースに色柄を作り込んでいく。ネクタイのマエストロの意見を聞きながら作りこんでいくこの作業も段々とスムーズになってきた。最初のころは、ナポリ服飾業界の昔話や『ネクタイとは…』といった禅問答のような話を聞くだけで2時間くらい経って中々仕事が進まなかったが、信頼関係が出来てきたのか?自分のペースで仕事が出来るようになってきた。                           しばらく工房にこもってアーカイブ資料を漁っていると、ふと不自然なものが目についた。 ヘヴィフランネル素材を使ったタイだ。         実は、スーツやジャケットのメーカーでもそうだが、どこの生地メーカーのものでも仕入れられるという訳ではない。各社で取引のある生地メーカーがあって、それがブランドの個性や打ち出しの違いに結びついている。 またネクタイメーカーであればネクタイ用のシルク生地メーカーと取引はあるが、スーツやジャケットに使われるウール生地のメーカーとは取引がないのが一般的だ。カチョッポリやドラッパーズなどのカットレングス対応のバンチからカットしてタイを作る場合もあるが、薄く柔らかいイタリア生地が殆どでこんなしっかりとしたフランネルは見たことがなかった。     マエストロに恐る恐る聞いてみると、   『あぁ、これはFox Brothersの生地を使っているんだ。Foxのダグラスさんと縁があってFox Brothersのイベント用に作っている。内緒だぞ。』 との返答。   『ダグラスさんは良く知っている!じゃあ、Foxの生地を仕入れてネクタイに出来るってこと?』   『う~ん、これは特別な依頼でやっているからなぁ。勝手にOKとは言えない。ダグラスさんに直接聞いてもらった方が良いかな。』   『分かった。ちょうど来週に生地展示会で会う約束をしているからそこで聞いてみる!』   となった。               翌週、ワクワクしながらミラノの生地展示会に向かった。 Fox Brothersのブースでダグラスさんに会うと、早速今回の企画意図を説明した。 [...]

COLUMN 『服の向こう側』 vol.38 / French styleと L pocket pants

            『L ポケット パンツはフレンチか?』 自分の中では随分昔から“何故かフレンチなアイテム”だ。       ここ最近、『フレンチトラッド』『フレンチアイビー』というキーワードを雑誌等でチラチラと見かけるようになってきた。 艶っぽいイタリアファッション一辺倒から、『英国調』のトレンドに移行してしばらく経つ…、じゃあその次は? という事で『フレンチ』に注目が集まっているのだろう。   実は、RING JACKETでは数シーズンおきにフレンチの匂いのする商品をこっそりと展開していた。メインの商材ではないが、ちょっとトレンドとは違った視点での商品があった方が面白いと思うからだ。 だが、声高に「フレンチスタイルです!」と声を上げるのは何だか気恥ずかしい感じがしてブログなどで特別発信はしていなかった。 それは、青春時代の写真を見返すような気恥しさや照れのような感覚だろうか?好きなんだけど好きと言うのがちょっと照れる、、、自分の中の『フレンチ』はそんな感じだった。                     20数年前にフランスにハマった。その前は、アメカジ、古着がベースにあったが、それからトラッド、パリやアントワープのデザイナー物、ドメスティックインディーズブランド、ヨーロッパのワークウェア…、と今振り返れば節操がなく何でもアリだった。 そんな何でもアリだった時代から一気にフレンチにハマっていく。ファッションだけでなく、フランスと付けば服だろうが雑貨だろうが本だろうが何でも盲目的に買っていたのだ。でも、知れば知る程『フレンチスタイル』の定義が曖昧でよくわからない。   当時働いていた職場の先輩にフレンチスタイルとは?を聞いた 『全てのことに答えを見つけようとするな。言葉にすると陳腐になる。考えるんじゃあない感じるんだ。』 と雲をつかむような話をされ全く分からない。     ポカンとしていると、先輩はニヤリとしてこう続けた、 『セントジェームスのバスクシャツやベレー帽、ウエストンのローファーだけがフレンチじゃあない。フランス製のものだけがフレンチじゃあないんだ。クラークスのデザートブーツ、ジョンスメドレーのハイゲージニット、コットンギャバジンのステンカラーコートもフレンチなんだ。分かるだろう?』 正直、まだ分からない。   仕方ないなという仕草をしながら、けだるそうに煙草に火をつけた。銘柄はゴロワーズだった。 独特の匂いが辺りに充満し始める。煙草をくゆらせながらゆっくりと話し出した。   ゴダール、トリュフォーのヌーベルヴァーグから始まり、「勝手にしやがれ」のジャン・ポール・ベルモンド、スタカン時代のポールウェラー、BCBG(べーセーべージェー)、セルジュ・ゲンズブール、ボリス・ヴィアン、サンジェルマン・デ・プレの人達、カフェ・ド・フロール、、、 色んな話を聞いて、何となく分かってきたような気がしたが、、、まだモヤがかかったような感じだった。今思えば、先輩もそんな感じだったのかもしれない。       仕方ないので、別の先輩にもフレンチとは?を聞く 『いいか、男の服っていうのは結局のところルーツを辿っていけばイギリスになる。それから、それを違うベクトルで自由と機能性、合理主義を追求して広げたアメリカだ。その二つだ。けど、それらは其々にスタイルやこう着るべきといったルールがあってそれに倣うのが普通。それをセンスよくミックスしながらスノッブに着るのがフレンチだ!』 ちょっと強引すぎるかな?とも思ったが、あまりにも自信満々で言われたからか?なんとなく合点がいく気もした。     [...]

COLUMN 『服の向こう側』 vol.37 / RING JACKET Napoli -double face safari jacket vol.2

ダブルフェイスの生地は、その名の通り二枚の生地を接結糸でとめて1枚の生地にしている生地のことを言う。二重織りや綾織でタテ糸とヨコ糸の出方が違って表裏の色が変わっている一枚の生地もダブルフェイスと最近では呼ぶが、先述のダブルフェイスとは根本的に違う。     接結糸でとめているダブルフェイス生地をジャケットにする場合は、裁断したパーツの端を数ミリだけ2枚の生地になるように剥いでから中に織り込む。それから端の処理を手でまつることによって出来上がる。 通常の生地の場合は、端の処理を三巻きにするか、別の生地を重ねて端の処理をするのでどうしても厚みが出てしまう。 ダブルフェイス生地を使った仕立ての利点は、こういった特性を活かして生地一枚で仕上げることが可能なので非常に柔らかく軽く仕上げることが出来る点だ。     しかし、通常の仕立てと縫製方法が違う為、ある程度上記のことを理解しながらデザインの指示をしないと上手くまとまらない。                     腰のポケットをインバーテッドプリーツ入り、そしてハンドウォーマーポケット(サイドからも手が入る仕様)にした。全部そのまま生地を重ねていくと、、、生地が何重にもなってモコモコになってしまう。元々2枚の生地を一枚に仕上げているので、単純に普通の生地の2倍厚みが出ることになってしまう。   そこで、 このパーツは生地を剥いで一枚にして、、、ここの部分は二枚のままで、、、 といった打合せに時間を要した。生地自体の厚みや伸縮性、縫いやすさ等々と沢山の要素があるので、デザインの指示だけでは満足のいく商品は出来上がってこない。                                 当初、背中にアクションプリーツを入れていたが、、、 ココも厚みが出過ぎるので無くすことに。                 カッターで生地を二枚に剥ぐ専用の機械。ダブルフェイス専門工場にある特殊な機械だ。       サイズの大きい小さいだけでなく、細かい仕様まで詰めていっている。RING [...]

COLUMN 『服の向こう側』 vol.36 / RING JACKET Napoli -double face safari jacket vol.1

  ナポリをはじめとした南イタリアならではのハンドメイドの服が好きだ。 独特のアジ、何とも言えない雰囲気、着心地の良さ、昔ながらの手仕事、、、挙げていくとキリがないほど好きなところが沢山ある。   その一方で、納期遅れ、仕様間違い、ナポレターナならではの性格?、、、等々のトラブルが後を絶たない。多くの輸入代理店が『良いのは分かるけど…、リスクが大きすぎる。』として扱わないのもよくわかる。   しかし、だ。全て平均点の『悪くない商品』、、、より、『悪いところがいっぱいあるけど、それらを帳消しにしてしまうぐらいズバ抜けた個性がある商品』に心惹かれる。知人には、『おかしい』『理解出来ない』と良く言われるが、まぁ好きで好きで堪らないものは止めようがない。     そんな商品が先日入荷した。 正直、納期や仕様の件で何度も何度もやりとりしていて『もうこんな事は最後にしよう。』とまで思っていたのだが、、、 入荷した商品を見るとその思いは消えてしまった。     素晴らしいクオリティに感動したのだ。     ITEM : JACKET / RING JACKET Napoli ART : 59058F01G MODEL : RJNJ-01 PRICE : 250,000- YEN +tax COMPOSITION : WOOL 100% SIZE : 44 . 46 . 48 . 50 【RING JACKET MEISTER ONLINE STORE】     [...]