COLUMN 『服の向こう側』 vol.33 / ancient madder print ②

エンシェント マダーの使い手ROBERT KEYTE社の担当者が英国よりやってきた。

都内の某ホテルで打合せをする。

 

 

部屋に案内され中に入ると、ベッドの上に生地サンプルが山のように積み上げられている。

実は、この光景は見慣れている。日本支社を持たない生地メーカーは、こうやってホテルの一室で商談をすることが良くあるのだ。高級ホテルのスイートルームでやることもあり、普段見れない世界を垣間見ることが出来る。

 

 

簡単な挨拶を済ませて、早速本題に入った。

 

 

anciet madder(エンシェントマダー)とは?』

 

 

色々と話を聞いているうちに、ぼんやりとしていたマダープリントの全容が明らかになってきた。

 

 

ancient=古代の」とある通り、イギリス古来のプリント方法の一つ。

また、「madder=茜(あかね)」の事で、茜をはじめとした天然の原料を使って染色する草木染めの一種である。

 

 

天然の染料を用いて染めるので、天然ならではのナチュラルな色合いがある一方で、鮮やかで発色の良いカラーが出にくい。(現代の多くのメーカーは、天然染料ではない薬剤を使って発色の綺麗さを追求している。昔のイギリス タイメーカーやイギリス生地メーカーが少し沈んだ深い色合が多かったのはこれによるところが大きいと推察される。)

 

 

また、染料だけではなく生地にプリントする方法も昔ながらのハンドスクリーンで刷っている。

今、世の中に出回っているタイ用プリント生地の殆どがインクジェットプリンターによるものだ。機械によるプリントは、ムラや失敗も少なく安定した品質となっている。(あまり本件と関係ない蘊蓄だが…、インクジェット機のヘッドはエプソン製が大きなシェアを占めている)

しかし、インクジェットは、生地表面にインクを吹き付けるので生地の表層部分にしか色が浸透しない。ハンドスクリーンによるプリントは手で刷って染料を浸透させるので、より生地の深くまで浸透しやすい。マダープリントならではの「深い色合い」は、この辺りにも理由があるように思う。

 

 

また、『抜染プリント』という手法も同時に用いられる。

これは、ある指定した部分だけ(柄の部分)染まらないように糊をつけて下染め(無地染め)する。その後、糊を落とした柄部分(染まっていない白部分)に先程のハンドプリントを施すのだ。

 

※通常のプリントは白い生地の表側だけ色柄をプリントするので裏側が白くなっている。

一方マダープリントは、抜染で生地全体を染める工程があるので裏側も色がついているのが特徴の一つ。(近年、これを真似て裏側だけインクジェットで色をつけて、柄をプリントする表側は白生地に仕上げた“マダー風”も存在する)

 

 

 

 

 

 

上記のように、時代錯誤とも言えるような手間のかかる作業を経て出来るのがマダープリントだ。皆やらなくなった理由が窺い知れる。

 

 

効率を考えると、最新のインクジェットプリンターに取って変わられたのも仕方ないのかもしれない。

しかし、だ。効率や安定だけが素晴らしい商品だとは限らない。非効率であっても、コストがかかっても、何者にも代えがたい魅力ある商品が世の中には存在する。

 

 

これまでも、効率や時代の流れによって無くなってしまった伝説の逸品があった。

 

エルメスのダッフルコート生地を作っていたことで有名なMOORBROOK3重織りパイルヘリンボーン生地。カールフロイデンベルグのボックスカーフ。古いブルックスブラザーズのボタンダウンシャツ用の生地を作っていたダンリバーオックス。80年代以前のアイリッシュリネン。ヴィンテージのトニック。リーバイスのコーンミルズ社デニム…等々、現在ではもう手に入らない。

 

 

マダープリントは、これらに並ぶ伝説の銘品となるように思う。(勿論、途絶えることなく続いて欲しいと切望しているが…)

 

 

現在、18FWの生産をかかっているが、正直問題も多い。ハンドプリント故のトラブルもあり、毎日やりとりしている。

多くのタイメーカーが大手アパレルやショップから 『常に正確な納期と完全な品質』 を求められる現代において、不安定要素の多いハンドプリント生地を喜んで使うかどうか?少し考えれば分かる。

 

 

でも、

だからこそ?

『本当のマダープリントを世に出したい』

という想いがふつふつと湧いてくる。コストが高くなるという理由で36オンスの白生地にプリントすることが殆どらしいが、敢えて上を行って40オンスの生地にプリントしてもらった。

イタリア生地ではなかなか見かけないしっかりとした質感だ。マダープリントならではの深い色合いと英国古来の小紋柄やペイズリー柄が良い雰囲気に仕上がっている。

 

 

 

そして、英国の特徴でもある“少しエグ味のあるカラー”(深い赤やボトルグリーン等)でマダーらしさに重点を置いた色柄でやっている。当ブログで何度か紹介している通り『英国が気分』な今、こういったVゾーンが気分だ。

 

 

 

 

ここ数シーズン、スーツやジャケットの色柄がシックで落ち着いた傾向にあるので、Vゾーンに少しアクセントとなるこういった色柄をもってくるのが良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これを英国で縫製するのではなく、ナポリの職人に柔らかな仕立てで作ってもらった。

 

 

ヴィンテージになり得る古(いにしえ)の手法を用いて作られた英国生地を

ナポリならではの柔らかなスフォデラータ(裏無し3巻仕様)で仕上げている。

 

 

数年後には手に入らなくなるかもしれない逸品だと思う。

是非、店頭で手に取ってもらいたい。