COLUMN 『服の向こう側』 vol.50 / 一万着売れた生地『calm twist』②

「サヴィルロウ番手」使いの生地を超える 太番手のタテヨコ双糸使いの生地は、評価が高かったが、、、イタリア生地のような薄く柔らかい生地に人気が移行してきており再考する時期に差し掛かっていた。   多くのイタリア生地がしているように細い糸を使ってヨコ糸を単糸にすれば単純に軽くなる。しかし、それだとイタリア物の廉価版にしかならない。 何かオリジナリティが必要だった。made in Japanのスーツ生地は昔から一部の人達には評価されていたが、「いま一つ華がない」「やっぱりインポートの方が良い」という声が大勢を占めていた。   クオリティは悪くない。 関税や輸送コストなどがのってくる輸入生地よりコストパフォーマンスに優れている。   と良いところが多いにも関わらず今一つ評価されない理由の一つにオリジナリティ・企画力が足らないと感じていた。(勿論、素晴らしい企画力をもった生地メーカーもあるのだが一般論として)   多くのアパレルが、売れているインポート生地のコピーを国内の生地メーカーで安価に作り変える、、、という事を繰り返していたのも原因の一つだと思う。参考にしたり、研究するのは悪いことではない。むしろ、絵画・音楽・食・アート、、、あらゆる分野で過去の名品や王道を研究し、分解、再構築して新しいモノが産まれている。クリエイティブと言われる仕事は多くあるが、まったく何も無いところからは産まれない。偉大な先人の知恵や経験があるからこそ現代の新しいモノが産まれるのだ。   しかし、研究やオリジナリティを追求するのではなく 安易にコピーして、安く作るために ・原料を安価なものに ・仕上げの整理加工も工程数を省いて などのようにして、「それなりにトレンド風に見えるが全然別物の生地」が大量生産されていったのが国産スーツ生地のイメージに繋がっていった。     オリジナルでイタリア風の薄くて柔らかい生地を作るのは簡単だったが、それを安易にしたくなかったのはそういった経緯を多く見てきたからである。 そこで、何度も生地メーカーと打合せを繰り返しているうちに幾つかのアイデアが出てきた。                 太番手の糸だけを使うのではなく、少し細い糸と太い糸を交互に打ち込んでみることにした。 「サヴィルロウのテーラー達が好んで使う仕立て映えのする生地」というコンセプトを崩さないように無理のない軽量化を図ったのだ。 勿論、太い糸、細い糸の両方とも2本の糸を撚り合わせた双糸使いである。           ■言葉だけでは分かり難いので簡単なイラストを描いてみた。 ※通常の糸使い。同じ太さの糸が均等に並ぶ。         太い糸、細い糸を交互に。           ピンヘッドのような 凹凸感が出て生地に表情が出てきた。   [...]

COLUMN 『服の向こう側』 vol.49 / 一万着売れた生地『calm twist』①

「サヴィルロウ番手」という言葉を聞いたことがあるだろうか?     52番手双糸のことで、タテ糸ヨコ糸ともにこの糸を用いた生地は、しっかりとしていて仕立て映えする生地として英国サヴィルロウのテーラー達が好んで使うことからこう呼ばれた。 「番手」の数字が大きくなるほど細い糸になる。因みによくみかけるsuper〇〇〇’s といった表記は繊維の細さを表す表記であって糸番手とは違う。業界人であっても混同している人が多いが、、、 ※この辺りの蘊蓄はグーグルなどの検索エンジンで調べたらいくらでも出てくるのでそちらに任せたい。 当コラムの趣旨は、ありきたりな蘊蓄寄せ集めブログではなく、検索エンジンでは出てこない『服の向こう側』を届けるのが目的である。     一般的に人気のあるイタリア生地は、タテ糸に60~72番手辺りの双糸を使っているケースが多い。更に、ヨコ糸を単糸にして薄く柔らかく仕上げる。 薄く柔らかく、着てすぐ馴染む感じが人気だが、、、 昔ながらの服好きはタテヨコ双糸使いのしっかりとした生地を好む傾向が強い。胸の膨らみ、ドレープ、袖の捻じれ、全体の仕立て映え、着込んで体に馴染む長年着用出来る質感などなどを考えると英国生地に多いタテヨコ双糸使いに行き着く。   そこで、『サヴィルロウで最も人気のある生地を超えるモノをmade in japanで作ろう!』と企画した。 10年以上前のことだが、思い出すととても懐かしい。   昨今、『世界で注目を集めるmade in Japanクオリティ』に早くから着目し、生地・縫製ともに日本製にすることで自社のストロングポイントを強化していった! と言いたいところだが、実は為替によるところも大きかった。 当時は、コレクションの9割がイタリア・イギリスの輸入生地で構成されており、為替の影響により生地値が大きく変動した。そこで、比較的影響の出にくい国産生地(国産生地であっても原毛は輸入するので全く影響がないという訳ではない)を導入してプライス・デリバリーを安定できるようにしていったのだ。   当初は、インポート至上主義(盲目的に輸入物を良しとする人達)がまだまだ多いのでは?と不安もあったが、、、思いのほかスムーズに受け入れられていった。そこで、どうせやるなら様々なインポート生地を扱ってきた経験値を活かしてこれまでにない生地をオリジナルで作ろう!と動き出したのだ。     最初に手掛けたのが、先述の 『サヴィルロウ番手を超える生地』だ。        ※初期のmade in Japna オリジナル生地。     サヴィルロウ番手よりしっかりとして生地安定性の増す太い糸を探し、その糸をタテヨコ双糸使いにして織り上げた。織機も大量生産用の高速織機ではなく、ションヘルと呼ばれる旧式織機でゆっくりと織り上げる。生地の色柄もイギリスとイタリアの両方をミックスさせた雰囲気を目指した。 試行錯誤した結果、しっかりとして仕立て映えのする良い生地が出来た。 テーラーなどで3~4mずつカットして販売するサヴィルロウ番手使いのバンチブックの生地と比べると、数百m単位で作り込むオリジナル生地は、それらに負けないクオリティ(むしろ勝っている?)でいながらプライスはグッと抑えることが出来るのも大きな特徴だ。     仕立て映えしながらもコストパフォーマンス抜群。売れないわけがなかった。 しかし、時代の流れはイタリアの薄く軽い生地になってきており、太番手のタテヨコ双糸使いの生地は重く好き嫌いが出てきているのも事実だった。     次の一手を考える時期に差し掛かってきていたのだ。     長くなったので続きは次回に。     RING [...]