COLUMN 『服の向こう側』 vol.53 / 衿の話 (new model no.286H)

「スーツのデザイン」というのは、大きく変わらないようでいて実は少しずつ変化していっている。

よく気を付けないと分からないような微差かもしれないが、その微差がデザインに大きく影響を与える。

 

 

ぼくがデザインとしてまず目に留まるのが「衿」だ。

衿の大きさ(衿幅)によって印象がガラリと変わる。

 

 

一般的にスタンダードなのは8.0~8.5cm幅くらい。少しモードというかシャープな印象になるのが、7.0cm~7.5cm。中にはもっと細いものもある。

もう15年以上前だろうか?エディ・スリマン率いるディオールのナローラペル・タイトフィッティングのスーツが大流行し「ナローラペル=モード」と捉える人も多いが、60年代~70年代前半に人気を博したコンポラスーツなども衿が細いスタイルなので一概にも言えない。

そして、9.0cm~9.5cmくらいが落ち着いたクラシックな雰囲気で、RING JACKETの主要ハウススタイルもこの辺りになってくる。

 

 

衿幅だけでなく、ゴージ位置(上衿と下衿を縫い合わせているラインの位置)も印象に大きく影響してくる。一時、ゴージ位置が高いデザインが「シャープな印象。スッキリとして格好良い。モダンに見える。」として人気があったが、、、極端なハイゴージに振れた反動でやや下がってきているのが最近の傾向だ。

 

クラシック回帰の流れもあり、モダンなハイゴージ・デザインより、イタリアのクラシックなサルトで作られるようなゴージ位置の低い衿が今の気分になってきたのだ。

 

昔、熟練の老サルトに聞いたことをふと思い出した。

『ハイゴージになると上衿が短く・小さくなり曲げにくくなる。上衿を首に沿わすように生地を曲げていくには、ある程度の大きさが必要なんだ。オーダーなのでやろうと思えば出来なくはないが、少し無理がある。クラシックなサルトで極端なハイゴージはあまり見られずゴージ位置が低いデザインが多いのはこの辺りに起因している。』

衿はあくまでデザインではあるが、「作り」にも影響するのだ。

 

 

現在の主流は、ゴージ位置が極端に高すぎず、下記のような肩のラインとゴージラインがほぼ平行になっているものである。

 

 

 

しかし、

昨今「カジュアル化」が進みすぎた反動で

ドレスクロージングに於いては「クラシック回帰」の大きなうねりがおきている。

より普遍性の高いクラシックなデザイン(衿)が求められるようになってきたのだ。

 

 

ぼくもこれまでナポリをはじめ幾つかのサルトでスーツを仕立ててきたが

多少の違いはあれど、やはりゴージ位置が低く、ゴージラインの傾斜角度のついた衿が多い。

 

 

独特の雰囲気というかアジがあって良い。

トレンドとは無縁だが、廃れず、時代と共に風化しない長く愛せるデザインなのが特徴だ。

 

 

 

 

 

※新型のno.286H model

 

 

そんな普遍性がありながら『今の気分』な衿型が、2019FWシーズンの新作 no.286H。

 

 

傾斜角度がついていて、やや低めのゴージラインにより上衿が長く大きくなる。それが外側へ広がり身頃にペタリと寝るようになるのが最大の特徴だ。

 

 

※ゴージラインも直線ではなくカーブしているのも特徴の一つ。

 

 

 

 

 

ゴージ位置だけではなく、これまでの上衿の設計方法と少し違った作り方をしている。

これまで主流だったスーツは上衿がシャツの衿に乗って起き上がってくるような感じだったのに対し、新型では、より身頃(鎖骨側)に沿ってペタリと寝るようにしている。

 

 

 

 

↑従来のスーツの設計

新型は白いラインのようになっている。

 

 

↑新型

これまでのスーツはブルーのラインのところに衿がくる。

ちょっとした事だが、これをやるには非常に手間暇がかかるのだ。ハンドメイドのテーラーがやる手法を取り入れており、この「ちょっと」が何とも言えないアジに繋がる。

 

 

所謂、既製服でこの雰囲気を目指しているところは中々ないのでは?と思う。

何故なら、衿幅やゴージ位置といったデザインだけ真似てもこの雰囲気は出せない。何となく似てるけど、、、やっぱり雰囲気が全然違う!となるのだ。

 

 

アジのあるスーツというのは一朝一夕には出来ない。長年の試行錯誤。技術の研鑽。型紙の追求。モノ作りへの情熱。どれが欠けても出来ない。

 

 

マニアックな衿の話で、果たしてどれくらいの人達が喜んで読んでくれるのか?とも思うけど、、、

「好きものにしかわからない世界」は、当コラムらしくて良いと思う。

 

 

また時々こんな話を投稿していきたい。